Tea Myths
紅茶のよくある誤解
オレンジペコーはオレンジ風味ではありません。紅茶の「発酵」に微生物は関わっていません。 広く信じられている紅茶の話を16件、一次資料に当たって確かめました。 中には、当サイトが自分で間違えて直したものも含まれています。
この記事の作り方
ここに載せているのは、当サイトが実際に一次資料に当たって確認したものと、自分たちが間違えて直したものだけです。裏が取れなかったことは「分からない」と書いています。
製法・分類
よく言われること
「紅茶は「発酵」させて作る」
実際は
微生物による発酵ではありません。茶葉自身の酵素による「酸化」が主役です。
紅茶づくりで「発酵」と呼ばれる工程の主役は、茶葉が持つ酸化酵素による成分の変化です。ヨーグルトや味噌のように微生物の働きを利用する発酵とは、仕組みがまったく違います。
それでも「発酵」の語が使われ続けているのは、茶の製法が確立した当時の呼び方がそのまま残っているためです。用語としては定着しているので、間違いというより「言葉のあや」に近いのですが、仕組みを説明するときに微生物の話を持ち出すと誤りになります。
なお、プーアル茶のように本当に微生物が関わるお茶もあります。こちらは「後発酵茶」と呼ばれ、紅茶とは別の分類です。
よく言われること
「紅茶と緑茶は別の植物から作られる」
実際は
同じ「チャノキ」です。違うのは製法で、なかでも酸化をどこまで進めるかが分かれ目になります。
紅茶も緑茶も烏龍茶も、すべて Camellia sinensis(チャノキ)という同じ植物の葉から作られます。品種や産地の違いはありますが、植物としては同じです。
摘んですぐ加熱して酸化を止めれば緑茶、途中で止めれば烏龍茶、十分に進めれば紅茶になります。実際には萎凋・揉捻・乾燥といった工程のかけ方も違うので、酸化の度合いだけで決まるわけではありませんが、いちばん大きな分かれ目はそこです。
大葉のアッサム種はコクの強い紅茶に、小葉の中国種は繊細な香りの紅茶や緑茶に使われることが多い、という傾向はあります。ただしどちらも同じチャノキの変種で、中国種から紅茶を作ることも普通に行われています。
よく言われること
「カモミールやルイボスも「紅茶」の一種」
実際は
茶葉を使っていないので、厳密には「茶」ではありません。
カモミール、ルイボス、ハイビスカスなどのハーブティーは、チャノキの葉を使っていません。花や葉、根を湯で抽出した「インフュージョン(浸出液)」で、茶とは別のものです。
日常の言葉としては「ハーブティー」で通じますし、英語でも herbal tea と呼びます。厳密に区別したい場面では herbal infusion や tisane という語が使われます。
この違いはカフェインの有無にもつながります。ハーブティーの多くはもともとカフェインを含みません(ただしマテ茶のように含むものもあります)。一方、紅茶のデカフェは「取り除いたもの」で、わずかに残ります。
等級・表記
よく言われること
「オレンジペコーはオレンジの香りの紅茶」
実際は
果物のオレンジとは無関係。茶葉の大きさと形を表す等級記号です。
オレンジペコー(OP)は、細長くよじれた大きめの茶葉を指す等級記号です。銘柄名でも風味の名前でもありません。缶に OP と書かれていても、オレンジの香りはしません。何をOPとするかは産地や作り手の慣習によって幅があります。
「オレンジ」の由来ははっきりしていません。オランダ王家オラニエ=ナッサウ家にちなむ説や、乾いた芽の色にちなむ説などが語られますが、いずれも裏付けのある定説ではありません。ここでは「そういう説が流布している」という以上のことは言えません。
よく言われること
「SFTGFOP のように記号が長いほど上等な紅茶」
実際は
等級は大きさ・形と芯芽の量を表すもので、味の順位ではありません。
記号が長いほど芯芽(チップ)を多く含み、手間のかかった茶葉であることが多いのは事実です。ただしそれは「そういう作り方をした」という情報であって、おいしさの点数ではありません。
そもそも等級記号に国際的な統一規格はなく、産地や作り手ごとの慣習で付けられています。産地をまたいで記号だけで優劣を比べることはできません。
実用的には、大きい茶葉はゆっくり香りが出て、細かい茶葉は短時間で濃く出る、という「抽出の性格の違い」として読むのが役に立ちます。
よく言われること
「「世界三大紅茶」は公式に決められた格付け」
実際は
国際的な格付けではありません。日本で広く使われている呼び方です。
ダージリン・ウヴァ・キーマンを「世界三大紅茶」と呼ぶのは日本で広く親しまれている言い方で、国際的に定められた格付けがあるわけではありません。
3銘柄がいずれも独特の香りで世界的に名高いことは確かです。ただ「三大」という枠組み自体は、権威ある機関が認定したものではないという点は押さえておくとよいでしょう。
ブランド・歴史
よく言われること
「TWG Tea は1837年創業の老舗」
実際は
創業は2008年です。1837年は同社が茶貿易の始まりとする年。
TWG Tea はシンガポールのラグジュアリー茶ブランドで、創業は2008年です。ロゴに大きく掲げられた1837という数字は創業年ではありません。
この数字は、同社がシンガポールにおける茶貿易の始まりとする年を指しています。ロゴの見た目から老舗と受け取られやすく、実際に誤解が広まっています。
詳しくは紅茶ブランド図鑑 →
よく言われること
「トワイニングは現存する世界最古の紅茶店」
実際は
「最古」と断定できる独立した根拠は確認できませんでした。創業1706年と同一地での継続営業は事実です。
ロンドンのストランドにあるトワイニングは1706年にさかのぼり、同じ場所で300年以上営業を続けています。ただし1706年に手に入れたのはコーヒーハウスで、茶を売る専門の店を構えたのは1717年というのが公式の沿革です。
一方で「現存する世界最古の紅茶店」という言い方には、独立した裏付けを確認できませんでした。何をもって「紅茶店」と数えるかで答えが変わる問いでもあります。当サイトでは断定を避けています。
創業の経緯も、トーマス・トワイニングがコーヒーハウスを「開いた」と語られることがありますが、公式の記述は既にあったコーヒーハウスを買い取ったというものです。
よく言われること
「マリアージュ フレールは1985年にマレ地区の店を開いた」
実際は
マレ地区は1854年の創業地です。1980年代に開いたのは、その場所での一般向けの店とサロン。
マリアージュ フレールは1854年、マリアージュ兄弟がパリのマレ地区ブルグ=ティブール通りで創業しました。マレは「後から進出した場所」ではなく、創業の地です。
1980年代に起きたのは、長く卸売が中心だった同社が一般向けの小売とサロン・ド・テを始めたことです。その意味では確かに「店が開いた」のですが、それは新しい土地への進出ではなく、創業の地で業態が変わったということ。「1985年にマレに開いた店」という言い方だと、創業地であることが抜け落ちてしまいます。
詳しくは紅茶ブランド図鑑 →
よく言われること
「Teavana や The East India Company の店に行ってみたい」
実際は
どちらも店舗はありません。地図サービスに古い情報が残っています。
Teavana は2018年度中に直営小売店の閉鎖が完了しています。The East India Company(ロンドン)は、2025年9月23日に清算手続き(creditors voluntary liquidation)が開始されました。
それでも地図サービスや店舗まとめには古い情報が残り続けます。当サイトの世界の紅茶マップでも、営業を確認できないものとして収録データから両者を取り除きました。
紅茶に限らず、閉店した店の情報は驚くほど長く生き残ります。出かける前に公式サイトやSNSで営業状況を確かめてください。
出典:スターバックス 年次報告書(Teavana 店舗閉鎖) ↗Companies House(清算の登記) ↗
詳しくは世界の紅茶マップ →
成分・体
よく言われること
「デカフェならカフェインはゼロ」
実際は
デカフェは「取り除いたもの」で、わずかに残ります。
デカフェは茶葉からカフェインを取り除いた紅茶です。取り除く処理をしたものであって、もともと含まないものではありません。
カフェインをもともと含まない飲みものには「ノンカフェイン」と表示されます。ルイボスなど茶葉を使わないものが代表ですが、ハーブ系がすべてそうとは限りません(マテ茶はカフェインを含みます)。
カフェインを避けたい事情がある場合は、この2つの表示を区別して選んでください。具体的な摂取量の判断は体質や状況によるため、必要なら医療者に相談してください。
よく言われること
「アイスティーが白く濁ったのは、茶葉が悪いから」
実際は
品質の問題ではありません。クリームダウンという自然な現象です。
紅茶を冷やすと白く濁ることがあります。多くはクリームダウンと呼ばれる現象で、テアフラビンやテアルビジンなどのポリフェノールとカフェインが結びついて微細な粒子になるために起こります。
成分がしっかり出ている紅茶ほど起こりやすく、品質が悪い証拠ではありません。なお硬水で淹れたときに水面へ膜が張るのは別の現象で、こちらは水に含まれるミネラルによるものです。
透明に仕上げたいなら、濃いめに淹れて氷で一気に急冷する(オンザロック方式)のが有効です。ゆっくり冷やすほど濁ります。
詳しくはクリームダウン →テアフラビン →テアルビジン →タンニン →クリームダウン →アイスティーにおすすめの紅茶 →
よく言われること
「べにふうきの紅茶ならメチル化カテキンが摂れる」
実際は
紅茶に加工する過程で、この成分はほぼ失われます。
べにふうきは日本で育成された品種で、緑茶に加工した場合にメチル化カテキンを多く含むことで知られています。
ただしこの成分は酸化に弱く、紅茶の製造工程でほぼ失われます。同じべにふうきでも、緑茶と紅茶では中身が違うということです。
和紅茶としてのべにふうきは、品種由来の香味を楽しむものとして味わってください。
よく言われること
「蜜香紅茶の「ウンカ」はウンカという虫」
実際は
茶の世界でウンカと呼ばれるのは、実際はヨコバイの仲間です。
台湾の蜜香紅茶や東方美人は、小さな虫に茶葉が吸汁されることで蜜のような香りが生まれます。この虫は茶の世界で慣習的に「ウンカ」と呼ばれています。
ただし分類上はウンカ類ではなく、ヨコバイの仲間(チャノミドリヒメヨコバイ)です。呼び名として定着しているため当サイトでも「ウンカ」と書きますが、正確には別の虫だと知っておくと混乱しません。
いずれにせよ、虫に吸汁された茶葉から良い香りが生まれるという点は変わりません。この香りを得るには虫に食べさせる必要があるため、産地では防除を控える作り方がとられます。
飲み方
よく言われること
「トルコの「チャイ」はミルクティー」
実際は
çay は「茶」そのものを指す語。トルコでは砂糖入りのストレートで飲むのが一般的です。
「チャイ」と聞くとスパイスとミルクで煮出したインド式のマサラチャイを思い浮かべがちですが、トルコ語の çay は茶そのものを指す言葉です。
トルコではチャイダンルックという二段重ねのポットの上段で濃い茶液を作り、下段の湯で好みの濃さに割って、小さなチューリップ型グラスで飲みます。ミルクは入れず、砂糖を加えるのが一般的です。
「チャイ」という語がどの地域の何を指しているかは、国によって違います。実は当サイトも一度この取り違えをして、トルコのリゼをミルクティー向きに分類してしまいました(修正済みです)。
よく言われること
「ミルクは先に入れるのが正しい(あるいは後が正しい)」
実際は
唯一の正解は決まっていません。長く議論されてきた、好みの問題です。
イギリスではミルクが先か後かが古くから議論されてきました。先に入れると熱い紅茶がミルクに少しずつ触れるため、たんぱく質が急激に熱を受けにくいとされます。
後入れには、紅茶の濃さを見ながらミルクの量を調節できるという実利があります。順序によって温度のかかり方が変わるため、口当たりに差を感じる人もいます。どちらにも言い分があり、どちらかが間違いということはありません。
議論の歴史そのものが紅茶文化の一部なので、両方試して好きなほうを選ぶのが正解です。
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